プレリュード
来日オーケストラの横顔的感想~第3回 by DORADORA
(音楽メルマガ 月刊《コン・フォーコ》 2008年2月号記事 音楽雑貨店♪プレリュード)
年末、年始は海外オケを聴きに行かなかったのですが、日本のオケを聴きに行ってなかなか楽しめました。公演は都響、インバル指揮「マーラー6番」、日フィル、コバケン指揮「第九」、新日フィル、ハウシルト指揮「ブルックナー8番」を聴きに行ました。
前の2公演は指揮者が好きで、だいたいどの曲を聴いてもフィーリングがあうので聴きに行って外れたためしがありません。
新日のほうはブルックナーでオケがどんな音を出すのか聴いてみたくて行ってみました。演奏はなかなか良かったですが、金管(特にトロンボーン)が随所でバリバリつんざくような爆裂音を出していて、オケとしては私の好みとはあまり合いませんでした(指揮者が変わると音が変わるかもしれませんが)。
さて本題ですが、1月末、2月初めに二つの海外オケ・オペラ公演に行ってきました。オケはノリントン指揮シュトゥットガルト放送響、ヤンセンVn「メンデルスゾーンVn協奏曲」、「ベートーベン3番、英雄」など(1/30(水)サントリーホール)、オペラはマリンスキー歌劇場「イーゴリ公」(2/1(金)NHKホール)です。
●シュトゥットガルト放送響公演
1月のシュトゥットガルトですが、目を引いたのはヴァイオリンのヤンセンでした。
まあ、私がヴァイオリン好きということもありますが、結構さらっと弾く若手が多い中で、思いっきり感情を込めてせつせつと弾いている感じに好感を覚えました。オケがノンヴィブラートですっきりした音のイメージを持って聴きに行っていたのでより強く感じたのかもしれません。
あと、容姿が綺麗なので、その分舞台栄えがしてプラスに働いていると思います。
ただ、綺麗を売り物にして最近出てきているそこらのヴァイオリン奏者とは音も演奏も違いますので、是非次の来日公演では聴きに行ってみてください。
次にオケのほうですが、私はもともとノンヴィブラート奏法があまり好きではないので、その第1人者といわれるノリントンの音とはどんなものか程度の感覚で聴きに行ってみました。技術レベルもなかなか高く、余計なヴィブラートなどかけなくても各人の音を集合させてシンプルに作曲家のイメージした音を表現するということの素晴らしさの一端は私にも感じられたような気がします。何でも食わず嫌いというのは良くないですね。
ただ、あとは個人の好みの問題なのですが、感動できる演奏だったかといわれれば、それはNoでした。なんとなく、味気なさ、物足りなさを感じてしまうのです。耳が古いのかもしれませんが、こればかりは好みなのでしようがありません。もちろん、こういう演奏に感動する人もたくさんいますし、いい演奏であることには変わりありませんので、何でも聴いてみることだと思います。
●マリンスキー「イーゴリ公」
2月のマリンスキー歌劇場「イーゴリ公」ですが、これについてはかなりがっかりさせられました。
ゲルギエフ指揮、マリンスキー18番の演目ということで期待していたのですが、印象としては、かなり手抜き公演という感じでした。
歌手はぱっと印象に残るような人はいなかったし、オケもそれなりに迫力はあるのですがなんか漫然とした感じで、せっかくの有名な韃靼人の踊りなどの場面でも演奏に躍動感が足りず、ゲルギエフ・マリンスキーはこんなつまらない演奏するのかといった感じを受け、がっかりしてしまいました(ゲルギエフは数年前、ウィーンフィルとチャイコフスキー「悲愴」の感動的な演奏を聴いて以来、大のファンだったので)。
どうやら、今回の同歌劇場の4演目のうち、ゲルギエフが芸術的に力を入れ、相応の歌手を集めたのは前評判の高かったプロコフィエフ「三つのオレンジの恋」とロッシーニ「ランスへの旅」だったようで、「イーゴリ公」は『有名でチケットも売れるので東京に来たついでに3日公演(演目中最多公演日数)して、お金を稼いでいこう』という意図を感じてしまう公演でした。
ちなみにわずか9日間で9公演も行い、2/2(土)など昼は東京文化会館でロッシーニ、夜はNHKホールでボロディンを公演するなど、考えてみれば無茶苦茶なスケジュールの公演でした。はなからそんなものに過度な期待をするほうが間違っていたのかもしれません。ゲルギエフ・ブランドを前面に出した聴衆を馬鹿にしたような公演で、正直これが48,000円(S席)では、まったく費用対効果にあいません。
今回に限らず、ロシア・東欧のオケ・オペラ団体はお金稼ぎを中心にすえて、日本に来る傾向が強いようなので注意してみたいと思います。
最後に、今回はこれからのお奨め公演を書いてみたいと思います。
お奨め公演は3月サントリーホールで行われるホールオペラ「フィガロの結婚」です。オペラはチケットが高く手が届きにくいですが、本公演はリーズナブルですし、歌手も比較的粒ぞろいのようです。フィガロ役のヴィヴィアーニは若手のバリトンとして注目されており、二度ほど出演しているオペラを見ましたが、声の強さよりは表現の繊細さや柔らかさなどを追求している歌手のように感じられました。
また、ホールオペラはオーケストラピットではなく舞台上でオケが演奏するので、オペラのシンフォニックな面が楽しみやすいのも特徴です。演出面でも、舞台だけでは狭いので、演出によっては客席を舞台として使うなどして、観客がまぢかで歌手を見られるなどの場合もあり、オペラになじみのない人でも十分に楽しめます。
是非、これを機会にオペラを観に行ってみてはいかがですか?
【DORADORA氏のプロフィール】
アマチュアファゴット演奏キャリア約10年。うち4年は店長とともに演奏。ここ3年間、オペラを含めたクラシックコンサートに年平均40回程度足を運んでいる。数多の演奏を体感した上で、独自の切り口による感想は、楽しくユーモラスで好評を博す。 しかし、以前は多忙を極め年数回程度のコンサート通いがやっとだったとか。
- 2018.04.02
- 06:58
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