プレリュード
来日オーケストラの横顔的感想~第4回 by DORADORA
(音楽メルマガ 月刊《コン・フォーコ》 2008年5月号記事 音楽雑貨店♪プレリュード)
ホールオペラ「フィガロの結婚」 ・ BBCフィル公演
若手・中堅の演奏家の活躍光る2公演
以前お奨めしたホールオペラ「フィガロの結婚」(3月12日)とBBCフィル(3月13日)の2公演を聴きに2日連続でサントリーホールに行ってきました。
●ホールオペラ「フィガロの結婚」
歌手陣、特に女性歌手陣の素晴らしさが印象に残った公演でした。
まずスザンナ役のダニエレ・デ・ニースですが、若手の注目株として欧米などでも人気上昇中の歌手のようで、歌唱力も高かったですが、特に印象に残ったのはそのチャーミングな演技力で、美しい容姿と合わせて観客を魅了していたように思います。
また、歌唱力という点では伯爵夫人役のセレーナ・ファルノッキアが一番印象的でした。声質はリリック・ソプラノということですが、繊細な表現の中にも芯の通った強い感じの声が素晴らしく、伯爵夫人の憂いや伯爵への深い愛情に加え、夫人の人間的強さまでが表現されていたように感じました(ちなみに、ファルノッキアは今年の10月のソフィア国立歌劇場「トゥーランドット」の公演でリュー役として来日予定です)。
もちろん、男性陣も相応で、フィガロ役のヴィヴィアーニは以前聴いた時の印象よりずっと男性的な力強い声になっていたように思います。役柄の違いもあると思いますが、声が徐々に強い声に進化していっているのではと感じられました。
オーケストラは東京フィルで、人数が結構多く、モーツァルトにしては多少重たい演奏になっていた感はありましたが、中堅指揮者のニコラ・ルイゾッティがフォルテピアノ(初期のピアノ)も弾きながら曲をうまくリードし、歌手とうまく掛け合いをしながら観客の笑いを誘っていました。
また演出でも観客を喜ばせる仕掛けが随所に見られ、かなり楽しい公演でした。
●BBCフィル、ジャナンドレア・ノセダ指揮
翌日はBBCフィル、ジャナンドレア・ノセダ指揮、ヒラリー・ハーンVnでシベリウスのVn協奏曲とチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」が主な演目でした。
まず、ヒラリー・ハーンですが、沈んだような深みのある音色で、音自体に奥行きがあるというか、なんとなく立体的に聞こえるような音であった感じがしました(伝わりづらい表現ですみません)。
オケなら、クレンペラーのCDを聴いているときなど、曲の構造が浮き彫りになるみたいな、構造的な音といった感じを受けることがあるのですが、単独の楽器の音でこのように奥行きのある立体感を感じたことは今までありませんでしたので、かなり衝撃的な音でした。
ただ、音自体には非常に感銘を受けたものの、シベリウスのコンチェルトとしてはいまいちでした。一音一音、非常に丁寧に弾いていましたが、結果的にテンポが全体的に遅すぎてしまい、第1楽章、第3楽章などは曲がもったりして、スピード感や躍動感に欠けた、ドキッとしないシベコンになってしまったような気がします。
これは、指揮者の指示というより、ハーンの演奏上の解釈で行っていることだと思うのですが、あまり私の好きな演奏ではありませんでした(以前、ノセダと諏訪内晶子のコンビでシベコンを聴いたときはもっとスピード感のある演奏をしていたと思うので)。それでも、素敵なVn奏者にまた出会えてよかったと思います。
それにしても、1月のヤンセン、3月のハーン、4月諏訪内晶子(2月も公演がありました)、5月五嶋みどり、6月A・Z・ムターと毎月毎月素晴らしいヴァイオリニストの公演が目白押しで、日本は幸せな国だな~と感じずにはいられません。
あと、ヴァイオリンの話が長くなってしまったのでオケの話は短くまとめますが、BBCフィルについていえば、技術力は相応に高いと思いますが、このレベルであれば日本のオケでも十分に匹敵するレベルだと思います。次に指揮者のノセダですが、ゲルギエフを師と仰いでいるということがうかがえるような、情熱的で、粘着力のある悲愴でした。また、指揮の振り方も、腕の振り方などが本当にゲルギエフに似ていて、頭の禿げ上がり方まで似ているので、なんだか後ろから見ていて笑えました。
【DORADORA氏のプロフィール】
アマチュアファゴット演奏キャリア約10年。うち4年は店長とともに演奏。ここ3年間、オペラを含めたクラシックコンサートに年平均40回程度足を運んでいる。数多の演奏を体感した上で、独自の切り口による感想は、楽しくユーモラスで好評を博す。 しかし、以前は多忙を極め年数回程度のコンサート通いがやっとだったとか。
- 2018.04.02
- 06:58
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