Top Page プレリュード 来日オーケストラの横顔的感想~第5回 by DORADORA プレリュード 来日オーケストラの横顔的感想~第5回 by DORADORA (音楽メルマガ 月刊《コン・フォーコ》 2008年6月号記事 音楽雑貨店♪プレリュード)モントリオール響、諏訪内晶子リサイタルなど今回は、4月に聴きに行った海外オケのケント・ナガノ指揮モントリオール響と、お気に入りのテノール、ジュゼッペ・サッバティーニおよびヴァイオリン、諏訪内晶子のリサイタルの感想などを・・・【ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団のコンサート】まず、ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団のコンサートは16日(水)、東京オペラシティ開催でした。曲目は「愛」がテーマとのことで、ベルリオーズ「幻想交響曲」、ワーグナー「トリスタンとイゾルデより前奏曲と愛の死」、ラヴェル「ボレロ」の3曲でした。コンサートは、モントリオール響の音色は今までのイメージとだいぶ違っていて、技術的には定評があるはずだったのが実はさほどでもないという印象でした。まず音色ですが、今回のコンサートプログラムのエッセイの中にも書かれていたように、“シャルル・デュトワによって築かれたパステル風の美しい響きによる垢抜けた演奏スタイル、フランス以上にフランス的なオケ”というのが今までのこのオケの一般的な評価だと思います。私も生で聴くのは初めてでしたが、デュトワのCDはラヴェル、ドビュッシーなど結構持っていますので、同様の印象をもっていました。しかし、ケント・ナガノがこのオケから引き出した音は以前とはまったく違う音色、演奏スタイルだと思います。音自体は以前からの印象と同様に軽めの音ではありますが、しなやかで、パステル風の美しい響きではなくなり、一音一音のアタックが強めで、音に角があり、非常にクリアで硬質の音色になっていました。また、フランスらしい靄(もや)がかった、柔らかい、ニュアンスを含んだような演奏表現は消え失せ、早めのテンポに非常に明確な音できびきびと演奏していくスタイルでした。しかも、特に管楽器で気になったのですが、明確なミス、音の初めや終り際で不安定さなどが時折見られ、技術的にも数年の音楽監督不在の間に低下したのではという印象を受けました(もともと高レベルだったのかどうかは実際の演奏を聴いたことがなかったので分かりませんが)。そんな中で、自分が吹いていたFgだけは「幻想」の4、5楽章などで、土俗的でいい音を聴かせていたので、少しほっとしました。それにしても、まさかこのオケから私の大嫌いな金管楽器の硬く、下品な爆裂音を何度も聞くとは夢にも思いませんでした。今回の私の率直な感想をかなりの悪意をもって表現すると、“ヤンキー指揮者が音楽監督に就任して、デュトワの創ったパステル風の美しい響き・ニュアンスをたっぷり含んだ洒落た演奏スタイルをこのオケから奪い、何でも明確に表現するヤンキースタイルを仕込んで、硬い岩のような音を出す音響装置にこのオケを変えつつある”といった感じでしょうか。確かに、一つのオケがいつまでも同じ様に演奏しても飽きられてしまうし、チケット売上は同指揮者の音楽監督就任後に15%もUpしたことから考えても、地元の人は新しい音・演奏スタイルを求めていたのかもしれませんし、何にでも変革は付き物だと思います。でも、CDですらあれだけ美しい音色を聴かせたオケがすっかり変貌してしまって、個人的には非常に残念な感じでした。【G・サッバティーニのリサイタル】次に、イタリアのテノール、G・サッバティーニのリサイタルは4月9日(水)、横浜みなとみらいホール開催でした。同氏は結構日本でリサイタルを開催しており、主催者側の要望も採り入れながら、なるべく今までに歌ったことのないものを中心にプログラムを作るそうです。今回はナポリの歌曲を中心に、有名オペラのアリアが数曲(最後はプッチーニのトゥーランドットからアリア「誰も寝てはならぬ」でした)組み込まれていました。同氏はハイCなど声の高さや強さを売り物にするような歌手ではありませんが、低音から高音まで、ppでもffでも声に安定感があり、表現力が豊かで、繊細なフレーズから力強いフレーズまで多彩に歌えるところが非常に魅力的でした。また、ステージから伺える人柄の良さに惹きつけられたファンも多いと思います(私もその一人です)。【諏訪内晶子のヴァイオリン・リサイタル】最後に、諏訪内晶子のヴァイオリン・リサイタルは4月10日(木)、サントリーホール開催でした。いつもはオケのコンサートで1曲コンチェルトを聴くだけでしたが、今回はモーツァルト、ドビュッシー、ブラームス(2番、3番)のVnソナタの計4曲、約2時間強の間、諏訪内さんのVnを十分に堪能しました。いつもながら、名器「ストラディヴァリウス・ドルフィン」の音色・響きの美しさには参りました。こんなに素晴らしいヴァイオリンの音色は他では聞いたことがありません、まったく別格だと思います。諏訪内さんはいつでも、感情を込めて歌い上げる演奏というよりも、高い技術力に支えられ、クールで、理知的な演奏をします(フレーズや曲の終わりくらい、感情的にもう少し粘っこくためて弾いてもいいんじゃないと思うくらい、さらっと音が消えていきます)。今まで聴いた演奏でも聴いていて危なっかしい感じとか、不安定さを感じるということは記憶にありません。でも今回は、理知的な演奏の中にも、ドビュッシーはすっきりとしてしなやかな、ブラームスは(諏訪内さんにしては)ねっとりとした表情が結構つけられて、ドキッとするような感情表現がたくさんありました。奏者が譜面の枠を飛び出て、熱く弾く演奏も好きですが、ここまで澱みなく、理知的に美しく弾かれると、これはこれで何もいうことはありません。今回も本当に素晴らしいコンサートを満喫できました。【DORADORA氏のプロフィール】 アマチュアファゴット演奏キャリア約10年。うち4年は店長とともに演奏。ここ3年間、オペラを含めたクラシックコンサートに年平均40回程度足を運んでいる。数多の演奏を体感した上で、独自の切り口による感想は、楽しくユーモラスで好評を博す。 しかし、以前は多忙を極め年数回程度のコンサート通いがやっとだったとか。 2018.04.02 06:56 プレリュード
来日オーケストラの横顔的感想~第5回 by DORADORA (音楽メルマガ 月刊《コン・フォーコ》 2008年6月号記事 音楽雑貨店♪プレリュード)モントリオール響、諏訪内晶子リサイタルなど今回は、4月に聴きに行った海外オケのケント・ナガノ指揮モントリオール響と、お気に入りのテノール、ジュゼッペ・サッバティーニおよびヴァイオリン、諏訪内晶子のリサイタルの感想などを・・・【ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団のコンサート】まず、ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団のコンサートは16日(水)、東京オペラシティ開催でした。曲目は「愛」がテーマとのことで、ベルリオーズ「幻想交響曲」、ワーグナー「トリスタンとイゾルデより前奏曲と愛の死」、ラヴェル「ボレロ」の3曲でした。コンサートは、モントリオール響の音色は今までのイメージとだいぶ違っていて、技術的には定評があるはずだったのが実はさほどでもないという印象でした。まず音色ですが、今回のコンサートプログラムのエッセイの中にも書かれていたように、“シャルル・デュトワによって築かれたパステル風の美しい響きによる垢抜けた演奏スタイル、フランス以上にフランス的なオケ”というのが今までのこのオケの一般的な評価だと思います。私も生で聴くのは初めてでしたが、デュトワのCDはラヴェル、ドビュッシーなど結構持っていますので、同様の印象をもっていました。しかし、ケント・ナガノがこのオケから引き出した音は以前とはまったく違う音色、演奏スタイルだと思います。音自体は以前からの印象と同様に軽めの音ではありますが、しなやかで、パステル風の美しい響きではなくなり、一音一音のアタックが強めで、音に角があり、非常にクリアで硬質の音色になっていました。また、フランスらしい靄(もや)がかった、柔らかい、ニュアンスを含んだような演奏表現は消え失せ、早めのテンポに非常に明確な音できびきびと演奏していくスタイルでした。しかも、特に管楽器で気になったのですが、明確なミス、音の初めや終り際で不安定さなどが時折見られ、技術的にも数年の音楽監督不在の間に低下したのではという印象を受けました(もともと高レベルだったのかどうかは実際の演奏を聴いたことがなかったので分かりませんが)。そんな中で、自分が吹いていたFgだけは「幻想」の4、5楽章などで、土俗的でいい音を聴かせていたので、少しほっとしました。それにしても、まさかこのオケから私の大嫌いな金管楽器の硬く、下品な爆裂音を何度も聞くとは夢にも思いませんでした。今回の私の率直な感想をかなりの悪意をもって表現すると、“ヤンキー指揮者が音楽監督に就任して、デュトワの創ったパステル風の美しい響き・ニュアンスをたっぷり含んだ洒落た演奏スタイルをこのオケから奪い、何でも明確に表現するヤンキースタイルを仕込んで、硬い岩のような音を出す音響装置にこのオケを変えつつある”といった感じでしょうか。確かに、一つのオケがいつまでも同じ様に演奏しても飽きられてしまうし、チケット売上は同指揮者の音楽監督就任後に15%もUpしたことから考えても、地元の人は新しい音・演奏スタイルを求めていたのかもしれませんし、何にでも変革は付き物だと思います。でも、CDですらあれだけ美しい音色を聴かせたオケがすっかり変貌してしまって、個人的には非常に残念な感じでした。【G・サッバティーニのリサイタル】次に、イタリアのテノール、G・サッバティーニのリサイタルは4月9日(水)、横浜みなとみらいホール開催でした。同氏は結構日本でリサイタルを開催しており、主催者側の要望も採り入れながら、なるべく今までに歌ったことのないものを中心にプログラムを作るそうです。今回はナポリの歌曲を中心に、有名オペラのアリアが数曲(最後はプッチーニのトゥーランドットからアリア「誰も寝てはならぬ」でした)組み込まれていました。同氏はハイCなど声の高さや強さを売り物にするような歌手ではありませんが、低音から高音まで、ppでもffでも声に安定感があり、表現力が豊かで、繊細なフレーズから力強いフレーズまで多彩に歌えるところが非常に魅力的でした。また、ステージから伺える人柄の良さに惹きつけられたファンも多いと思います(私もその一人です)。【諏訪内晶子のヴァイオリン・リサイタル】最後に、諏訪内晶子のヴァイオリン・リサイタルは4月10日(木)、サントリーホール開催でした。いつもはオケのコンサートで1曲コンチェルトを聴くだけでしたが、今回はモーツァルト、ドビュッシー、ブラームス(2番、3番)のVnソナタの計4曲、約2時間強の間、諏訪内さんのVnを十分に堪能しました。いつもながら、名器「ストラディヴァリウス・ドルフィン」の音色・響きの美しさには参りました。こんなに素晴らしいヴァイオリンの音色は他では聞いたことがありません、まったく別格だと思います。諏訪内さんはいつでも、感情を込めて歌い上げる演奏というよりも、高い技術力に支えられ、クールで、理知的な演奏をします(フレーズや曲の終わりくらい、感情的にもう少し粘っこくためて弾いてもいいんじゃないと思うくらい、さらっと音が消えていきます)。今まで聴いた演奏でも聴いていて危なっかしい感じとか、不安定さを感じるということは記憶にありません。でも今回は、理知的な演奏の中にも、ドビュッシーはすっきりとしてしなやかな、ブラームスは(諏訪内さんにしては)ねっとりとした表情が結構つけられて、ドキッとするような感情表現がたくさんありました。奏者が譜面の枠を飛び出て、熱く弾く演奏も好きですが、ここまで澱みなく、理知的に美しく弾かれると、これはこれで何もいうことはありません。今回も本当に素晴らしいコンサートを満喫できました。【DORADORA氏のプロフィール】 アマチュアファゴット演奏キャリア約10年。うち4年は店長とともに演奏。ここ3年間、オペラを含めたクラシックコンサートに年平均40回程度足を運んでいる。数多の演奏を体感した上で、独自の切り口による感想は、楽しくユーモラスで好評を博す。 しかし、以前は多忙を極め年数回程度のコンサート通いがやっとだったとか。 2018.04.02 06:56 プレリュード